リル・ベイビーがわずか数年で最高クラスのラッパーになった理由

2022年10月にリリースしたニューアルバム『It’s Only Me』が大ヒットし、自身の楽曲が25曲も全米チャートに同時ランクインする快挙を成し遂げたLil Baby(リル・ベイビー)。アメリカを代表する大人気ラッパーである彼の軌跡をたどるドキュメンタリー映画『アントラップ〜リル・ベイビーの軌跡〜』がAmazonプライム・ビデオで配信されている。

本作は、リル・ベイビーがジョージア州・アトランタのストリートから全米チャートの頂点に立つまで急成長していく過程を追ったドキュメンタリーだ。リル・ベイビーの熱心な父親としての姿や、親との関係、地域の慈善活動、人種差別への抗議活動などが、密着取材の初公開映像や大ヒット曲と共に描かれている。このドキュメンタリーでは、リル・ベイビーがラップを始めてわずか数年で国内でも最高クラスのラッパーになった理由にも注目している。

ドラッグディーラーからラッパーへと転身を図り、2017年にデビューしたリル・ベイビー。公開したミックステープが話題となり、ヒップホップ界で徐々に注目を集めていく。音楽レーベル「Quality Control(クオリティ・コントロール)」が全力を注いで売り出したリル・ベイビーは、SNSやインタビューが苦手にもかかわらず、メディア出演やライブなどプロモーションに送り出された。

Quality Control CEOのPierre “P” Thomas(ピエール・P・トーマス)は、いつもリル・ベイビーにこう言い聞かせたという。「カネのことは考えずにやるんだ。観衆の前に立つことを考えろ。犠牲が躍進を生む」「彼にとって犠牲とは裏社会で得る大金をあきらめること。ラップのためにだ。それでも成功は保証されない」と“P”は付け加える。

楽曲のリリースを重ねるごとに、最初は荒削りだったリル・ベイビーのラップも驚くほどの速さで説得力を持つようになっていった。全米に絶大な影響力を持つラジオ局「Power 105(パワー105)」の人気番組『The Breakfast Club(ブレックファスト・クラブ)』のCharlamagne Tha God(シャラメイン・ダ・ゴッド)は、「フロウから歌声、拍子や、リリックに至るまで、何かが起こっていた。リル・ベイビーの音楽を聴く度に思った」と当時の印象を振り返る。リル・ベイビーは毎日スタジオに通って他の誰よりもラップをすることで、国内でも最高クラスのラッパーへと成長していった。

2018年にプラチナ認定を受けたリル・ベイビーのデビューアルバム『Harder Than Ever』に続き、2020年にリリースした2枚目となるアルバム『My Turn』はダブルプラチナを達成する大ヒットを記録。ラッパーのDrake(ドレイク)も「彼の出したアルバムは誰をも満足させる出来栄えだ。ベイビーは独自のものを持っていた。強力なビート、間合い、メロディ、リリックまで。今や誰の曲にもベイビーの影響がある」と高く評価している。同作は2020年に音楽業界全体で最も売れたアルバムとなったが、コロナ禍で世界は閉ざされていたため、大ヒットしたアルバムの影響をリル・ベイビーは実感できなかったようだ。

同じく2020年、黒人男性ジョージ・フロイドが白人警官の暴行により殺害された事件を受けて、リル・ベイビーは抗議デモ、システム化された人種差別、Black Lives Matterムーブメントについて語るプロテストソング「The Bigger Picture」を発表。2020年を象徴する曲となった「The Bigger Picture」を披露したグラミー賞でのライブパフォーマンスも話題を呼んだ。

地元アトランタで行われたBlack Lives Matterデモにも参加したリル・ベイビーは、「黒人には皆同じ責任がある。信念のために立ち上がり、発信力があるなら声を出す」と人種差別への抗議活動について語り、さらに「闘い続ける責任があると感じている。次の世代により良い世界を残すためだ」と未来を見つめる。

リル・ベイビーのアルバム『My Turn』『It’s Only Me』を共同でリリースした「Motown Records(モータウン・レコーズ)」の会長/CEOであるEthiopia Habtemariam(エチオピア・ハブテマリアム)は、「彼の音楽は社会の真実から生まれ、時代を反映していると言われます。それこそが彼のしていることです」と、リル・ベイビーがリアルに時代を象徴するラッパーであることを伝えている。

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