ナイキのスウィッシュロゴは、破格のデザイン料だった

誰もが知っている最強のスポーツブランド「NIKE(ナイキ)」。その創業者であるフィル・ナイト自らが語ったNIKE創業物語が『SHOE DOG ―靴にすべてを。』(東洋経済新報社刊)だ。

「NIKE」の文字が併記されていなくとも、一目でNIKEだと認識できる強烈なエネルギーを持つブランドロゴである「スウッシュ(SWOOSH)」。スポーツ好きであるなしに関わらず、世界中の人々に広く浸透するそのロゴの誕生には、さぞかし多くの時間と予算が費やされたのだろうという想像を、真っ向から全否定する事実が同書には記されている。

ロゴを作ったデザイナーの名はキャロライン・デビッドソン。彼女は、フィルが副業として会計学の講師をしていたポートランド州立大学でデザイン科を専攻する学生だった。時給2ドルという薄給ながら、貧乏学生だった彼女はフィルのオフィスに度々足を運び、パンフレットや雑誌広告を手がけていたという。

1971年、オニツカタイガー米国輸入代理店契約の解消が避けられないと悟ったフィルは、自社ブランドを立ち上げるにあたり、早急にロゴを決める必要があった。彼はキャロラインをオフィスに呼ぶと、久々の仕事としてロゴ制作を依頼した。

自分でも望むものがはっきりとしていない曖昧な状態にあるフィルが彼女へ伝えたのは、「躍動感のあるものを」ということだけ。あまりにもざっくりとした依頼に困惑しながらも、キャロラインは数日かけてデザインに取り組み、数十パターンのロゴ案をあげてきた。フィルやスタッフがロゴ案に目を通したところ、「翼みたい」「風が吹いてくるみたい」「ランナーが走った跡みたい」とそこにいた全員の気を引いたのが、のちに“スウッシュ”と名付けられるロゴデザインだった。

だが、当時のフィルはそのデザインをあまり気に入ってはおらず、やむを得ずでの決定だったという。工場での生産スケジュールの都合上、待った無しの状況下にあり、しぶしぶでも選ぶしかなかったのだ。そして考案者であるキャロラインには、感謝の意を込めて35ドルの謝礼が支払われた。

現在、スポーツブランドの売上ランキングにおいて、約3兆8千億円(2018年度)という圧倒的規模で断トツの首位に輝くNIKE。当時のレートでわずか11,000円のデザイン料で作られたロゴは、誕生から半世紀を迎えようとしている今なお、時代を超越した輝きを放ち続けている。

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