ジミン(BTS)、ソロアーティストとして新たな出発を告げる記念碑的MV『Set Me Free Pt.2』

3月24日、ついにBTSのJIMIN(ジミン)が待望の1stソロアルバム(EP)『FACE』をリリース、オリコンやBillboard Japanなどのチャートでいきなり初登場1位にランクインした。収録曲「Set Me Free Pt.2」のミュージック・ビデオも作品の存在感を強烈にアピールしている。

「Set Me Free Pt.2」は、ジミンがパンデミック中の内面の感情を表現したというアルバム『FACE』の中で、音楽的にも精神的にも新たな自分像を追求し、彼の持つパワフルな面を解き放った楽曲だ。痛みや悲しみ、虚しさなどが渦巻く内面と向き合い、自分の手で自分自身を解放し、自由に向かって進むという固い意志が込められているという。

オートチューンとノーマルボイス、透き通るファルセットの間をシームレスでドラマティックに行き来する楽曲展開は、内面の葛藤と解放の欲望の動きが変化していく様子を表現している。強烈なブラスとドラムラインは「Set me free」のリフレインと重なりながら、解放を渇望する楽曲のイメージをより鮮明に浮かび上がらせている。

MVはBTSとしてのジミンが、自己追求の末に1人のアーティストとして生まれ変わっていく過程を追う構成で、大きく3つのパートに分けている。

第一部は、死や絶望、反抗を意味する黒の色彩から始まる。異世界の雰囲気へと誘う壮大なコーラス、監獄をイメージしたという舞台で群舞をする男女数十名のダンサーの中心にいきなり現れるジミン。ダンサーをバックに「I got a good time/Yeah time to get mine」と歌いながらソロダンスを見せるが、徐々にダンサーが作るサークル状フォーメーションの中心へと進んでいく。「道の果てに止まった僕」ジミンは、その中で「過ぎ去りし自分のために手を挙げる」と宣言する。

MVの中で象徴的な役割を果たしている円形の監獄は「パノプティコン」という刑務所システムがモデルになっているという。これは別名「全展望監視システム」とも言われ、中央に監視塔がありその塔を取り囲むように小さな囚人部屋が配置されているが、囚人からは監視員が見えない構造になっていることから、囚人はいつ自分が見張られているかわからない。そのため囚人の中に「第二の監視員」が生まれることになるが、このメタファー的な舞台装置から、ジミン自らが自分を監視していたことを暗示しつつ、サビ部分の「Set me free(自由、解放)」の意味をより強めていると考えることができる。

サビが徐々に終わっていくと同時に画面は暗転し第二部へ。闇を裂くようにして反射する光の中から上半身にドイツ語のレタリングを施したジミンが強烈に登場。不自然なまでにオートチューンがかけられた「I got feel low/Still ナン ミロ(僕は迷路)」から始まる歌とジミンの激しいダンスは、閉じ込められた世界でさまよい、そこから抜け出そうともがいている様子を聴覚的・視覚的に表現している。

大きなブラックレター体で書かれ、ひときわ目を引くこのレタリングはオーストリアの詩人リルケの『時祷集(じとうしゅう)』の第一部「僧院生活の書」の一節とのこと。邦訳は「物の上にひろがって大きくなる/輪のような生を私は生きている/おそらく最後の輪を完成することはないだろう/しかし私はそれを試みようと思っている/私は神のまわりを、太古の塔のまわりを廻っている/そしてもう千年も廻っている/しかも私はまだ知らない、自分が一羽の鷹であるか、一つの嵐であるか、それとも一つの大きな歌であるかを」という内容で、映像の中で形を変えて何度も登場するダンサーの円(輪)状フォーメーションの意味がここにもつながっていることを暗示している。

第三部は「僕のことをあざ笑っても止まらない」と何かを振り切ったような部分から始まる。ここからクライマックスでのサビ「Set me free」のリフレインの高まりに合わせて、ダンサーたちはジミンを取り囲み、徐々へ中心へと集まり、円陣の中へと彼を飲み込んでいくが、ダンサーに担ぎ上げられたジミンが空中で何かをつかんだ瞬間、ダンサーは総崩れとなりその中からジミンが立ち上がって振り向くところでMVは終わる。

冒頭のいかつい黒の衣装とは明らかに対照的な、希望や無垢を表す白色のニット衣装で立ち上がったジミンは、自身を閉じ込めていた輪を断ち切り、迷路から抜け出して比喩的に生まれ変わったことを象徴している。それはアーティストとして独り立ちし、新たな一歩を踏み出そうとしている彼の姿と重なるようだ。

ちなみに「Set Me Free Pt.2」はBTSメンバーのAgust D(SUGA)の「Interlude:Set me free」(2020年)に触発されて制作されたともいわれているが、主に内面の不安に焦点を当てた「Interlude:Set me free」よりも、「Set Me Free Pt.2」は不安を乗り越えてその向こう側にあるものをつかもうとしている楽曲だといえる。その他にもARMY(BTSのファンの愛称)の間では歌詞の「飛んでいくbutterfly」は「Butterfly」、「狂わないために狂おうとするんだ」は「ON」などBTSの人気曲ともリンクしているのではないかと話題になっており、気になる方は合わせて視聴してみるのも楽しいかもしれない。

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