全てのプロデューサーコミュニティに感謝 J. コール、新曲をサプライズリリース

米ヒップホップ界、孤高のアーティストJ. Cole(J. コール)が先日突如新曲をサプライズ・リリースしてファンを驚かせたが、その経緯が実にコールらしいと話題だ。

新アルバムの制作も佳境の中、インスピレーションがなかなか湧いてこず行き詰まっていたところ、いよいよネットで“J. コール的なビート”を検索してみたコール。真っ先に上がってきた、プロデューサー Bvtmanによるビートを聴いてみると刺激になったらしく、ラップを吹き込んだのがこの「Procrastination(Broke)」だった。

勢いで書いたということもあるだろうが、本来はお蔵入りになるはずの曲だったらしい。しかしコールはこの曲が気に入ったようで、感謝の印としてBvtmanに直接贈り、感激したBvtman本人が自身のYouTubeチャンネルで公開したのだった。

「この曲は君のチャンネルで公開されるべきです。そして、日夜新しいトラックを制作して世界に公開しているすべてのプロデューサーへの感謝の印としてリリースされるべきだと思っています。自分同様に、何万人というアーティストが刺激やアイデアや、言葉やパンチラインをひらめこう、突き抜けようと日々を必死でもがいています。モチベーションが湧かなかったある日、なんでもいいからきっかけが欲しいと思い、俺は興味本位で“J. コール的なビート”と検索してみたら君のが最初に出てきました。俺はプレイを押して、集中し、これを書きました。普通なら日の目を見ないかもしれない曲だが、そうやってしがみついていることもやめました。これは君や、これを必要とするすべての人のものです。Bro(兄弟)、幸運を。そしてそのまま突き進んでください!」

モチベーションが上がらず、生みの苦しみでもがいていたコールに、一抹のインスピレーションを与えてくれたBvtman並びに、トラックメイカー、ビートメイカーを含めたすべてのプロデューサーコミュニティに感謝する意味でドロップされた新曲だったというわけである。

このメッセージがコールのマネージャーから送られてきた時、息子を乗せていつものようにハイウェイを運転中だったというBvtman。突然のことに驚き、感激したそうだ。「この曲が自分にとってどれほどの意味を持つか、僕のことを知っている人ならわかると思います。夢が叶ったような、ついに訪れた本当の達成感と充足感です。現実に起こったことだなんて、自分でも信じられないくらいですが、でも本当に起こったのですから」と感極まったようにInstagramのキャプションに記している。

コールのラップも、まるで原点を見つめなおすかのような内容だ。「実際のところは、もしかしたら日常の大変さや戦い、困難から遠く離れた場所にきてしまったのかもしれない/もう俺の作るものは、どん底にいたときのやつほど/誰かに刺さることはないのかもしれない/でも知ったことか、俺はこの新たな挑戦にワクワクしてるんだ/タオルを投げ入れろ? 冗談じゃないぜ」と、音楽を生み出そうともがく様子をそのまま赤裸々に綴っている。

コールはとにかく感受性が強いというか、実直すぎるとも言われるラッパーだ。天才肌、秀才、しかし気にしすぎるほど敏感な感性の持ち主である分、クリエイトする際の自信と不安のせめぎ合いも半端ないのかもしれない。イメージが何も湧いてこず、どうにか突破口をと探していたとき、何気なく検索して出てきたBvtmanのビートはまるで溜まったダムに穴を開けるような刺激となったのだろう。なんてことのないきっかけで、自分の葛藤や人生を映し出した名曲が、ふと生まれたのだ。

この曲のリリースによってコール自身には一銭も入ってこないだろう、しかし一方で2021年の『Fall Off』以来の新作への期待もさらに高まっただろう。自身の原点へと連れ戻してくれたBvtmanのビートで、アルバム完成への勢いもついたのではないだろうか。待望の本リリースまで、そう遠くはないはず。期待して待っていよう。

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